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    ここは"still here"という名前のブログです。日記が主体の文字ばかりのブログですので、ご注意を。 日記の他に二次創作小説(SS)を晒していますが、現在まさに電池切れです……。今のところ「マリみて」、「なのは」、「夏目友人帳」があったりなかったり。


一人になる前に
2008 / 11 / 30 ( Sun )
 とっても、お腹が空いたので、お風呂に入ります。そして、何か作る。先に食べたいが、お風呂のお湯が冷たくなるのは困る。本当に、困った問題です。
 さて。昨日電車の中で書いていたssに、続きを作ってアップしてみました。久しぶりに志摩子だったりします。登場人物は、志摩子さん、祥子さま。名前だけの人は乃梨子、佐藤。若干、佐藤が文字通り絡んでます。
 胸を張って言おう。オチはない。だが、いつも通りだ!

 ※急ごしらえで、しかもWordでしか校正チェックしてないのです。お腹が空いているので、仕方ないのです(でも、お風呂に入る)。なので、誤字脱字は拍手でツッコミ下さい!

「一人になる前に」


 きれいにプリーツがくるりと舞って、次の瞬間には乃梨子はビスケット扉から飛び出して行った。一連のそれらの動きがまるで映画か何かの一場面のようで、志摩子は一人残されたサロンで小さな息をつく。階段を駆け下りていく音が心地良い。このままサロンを出ても良かったのに、志摩子はシンクへ歩み寄るとティーカップを手にした。つまり、自分はもう少しここに長居するつもり、というわけだ。今ここを出ても乃梨子には追いつかない。だから、二人の邪魔にはならないのだけど。それでも志摩子は時間をあけることを選んだ。乃梨子が上手く瞳子ちゃんをつかまえられればいい。あの二人には二人だけの時間が流れることがある。本人たちは気付いていないのかもしれないけれど。志摩子には二人の関係がきっと祐巳さんや由乃さんたちと自分が築いてきたもの、そういった関係なのだろうと想像した。また、そうであって欲しいと思う。お姉さまが卒業したように、明日祥子さまと令さまも卒業される。そして、来年は志摩子自身も。お姉さまが卒業された時、その空白に耐えるために必要なのは、やはり仲間だろう。もちろん、それが妹であってもいい。ふと志摩子は思う。在学中に自分は孫という存在と対面することがあるのだろうか、と。その光景を想像するのは、少しだけくすぐったい。けれど、可能なら志摩子が卒業するまでに乃梨子に妹ができればいい。もちろん、妹については乃梨子に全て任せるつもりだし、だいたい乃梨子自身のことに口出しするつもりもない。加えて、ロサ・ギガンティアを継いで欲しいなど考えてもいない。ただ、妹という存在はやはり特別だ。乃梨子に妹がいれば、きっと乃梨子自身が成長できる。もっと優しくなれる。強くもなれるし、そしてもしかしたら……弱くもなってしまうだろうけど。でも、どんな時にも隣に妹という存在があれば、それは力になる。

 蓉子さまは本当に素敵な言葉を残された。

 ――妹は支え。

 全くその通りだ。

 だから。

 志摩子が卒業を迎えるまでの間に、乃梨子を支える誰かが現れるといい。テーブルにティーカップをそっと置くと、志摩子は椅子を引いた。静かに引いたつもりだが、ゴトリと木製の椅子が、床を擦る音が響いた。そして、志摩子は分かっていたはずのことを再確認する。
 
 サロンに今、志摩子一人だけ。
 
 指先を温めるように、カップに触れるとそこから熱が少しずつ上へ上へと上がっていく。けれど、腕より先には届かなくて、志摩子はカップに口づけた。自分が吐き出した息が、随分と白い。紅茶の温かさが身体をじわじわと包み込んで、周りの空気から切り離されたように感じられた。きっと、あっという間に過ぎていくのだろう……志摩子はそんなことを思った。祥子さまや令さまの私物探しの間中、志摩子はそればかりを考えていた。これは、一年後の妹たちの姿だ。自分たちのための予行演習みたいなものなのだと。春がきて、夏がきて、短い秋がきて。冬を越えたところに、それは待っている。実際は一年よりずっと短くて。忙しさに身を委ねているうちに、もっと短く感じられるはず。来年の冬には、お姉さまが自分自身で未来を選び出したように、志摩子にも決断の時がくる。そこにはお姉さまも乃梨子もいなくて。けれど、そういう場所を自分は選ぶだろう。
 
 また、一人になる。

 そこまで考えて、志摩子は薄く笑った。何も、自虐的な発想ではない。お姉さまが志摩子を残していったように。志摩子も乃梨子を残していく。お姉さまが一人で歩き出したように、志摩子も一人で歩き出す……歩き出さなければならない。今でも、お姉さまがリリアン女子大に合格したと伝えに来た時を思い出すことがある。人なつっこい笑みが、志摩子の胸を温かくする。お姉さまが合格するだろうと、志摩子が言うのもおかしなことだが、それは分かっていたことだった。何しろ、英米文学科だ。よほどのことがなければ落ちないだろう、と考えていたのだ。何回もあることではなかったが、希に一緒に帰宅することがあると、お姉さまは「悪い、志摩子」そう言って、カバンの中から洋書のペーパーバックを取り出すことがあった。「今、佳境なんだ」そんな風に笑って。一人窓の外を眺めていても寂しくはなかった。隣にはお姉さまがいて、ザラついたような少し硬めのページをめくる音がして。バスがカーブに差し掛かると、志摩子の身体も傾ぐ。トンとぶつかった肩をお姉さまが引き寄せて「ねえ、志摩子。この単語なんだっけ?」なんて頬を寄せたので、お姉さまの肩に頭を乗せたまま志摩子はお姉さまの手元に視線を落とした。
「manage to……ですか?」
「うん、思い出せそうで思い出さない」
「やっと〜する、とか。なんとか〜する、とか。そういう使い方だったような気がします」
「ああ、そうそう、それだ」
 もう覚えた。多分、試験まで忘れない。そう言って志摩子の髪を撫でた。だから、あの日志摩子は駅につくまでずっとお姉さまの肩に寄りかかり、一緒にペーパーバックを読んでいた。お姉さまほど英語が堪能なわけではないが、ほんのり心温まるようなストーリーだったと記憶している。もう一度、お姉さまの笑顔を思い返して、志摩子は胸に手を当てた。あんな笑みを、卒業する時に乃梨子に見せられるだろうか。お姉さまは合格したから、晴れやかな笑みを浮かべたわけではない。もちろん合格したことに安堵もしただろうけど、それ以上にお姉さまは自分で生み出した次の居場所へ、歩み出すことを嬉しく思ったに違いない。自ら選び取ったことに、意義を感じたはずだ。そして、志摩子は。それが嬉しくて。けれど、お姉さまがいってしまうことが寂しくて。そうだ、お姉さまだけが一歩先へ踏み出して、志摩子を置いていってしまうような錯覚に少しだけ苦しんだ。それも、今は懐かしく感じられるけれど。
 不意に階下で物音がして、志摩子はティーカップへ伸ばした手を止めた。躊躇うことなくその音は近づいてくる。薔薇ファミリーの人間であることはその足音で分かる。大抵の場合、一般生徒の足音というのは、遠慮がちでリズムが乱れる。しかし、一定のリズムで近づいてくるそれは――やはり。
「ごきげんよう。まだ残っていたの?」
 祥子さまだった。
「ええ、もう帰るところです」
「そう」
 祥子さまは短く頷くと、志摩子の向かいに座った。カバンから何かを取り出そうとして、それが文庫だと分かると、志摩子は目を細めた。
「何かしら?」
「いえ。紅茶、召し上がりますか?」
「あら、いいわね」
 志摩子は自分のカップをシンクで洗って、祥子さまのために別のカップを取り出した。まだポットのお湯は温かいはずだ。志摩子は手早く紅茶を淹れると、祥子さまの前へ置いた。
「ありがとう」
 文庫から目を離して、祥子さまがカップを手にする。
「温かいわね」
 志摩子は微笑してそれに答えると、コートとカバンを手に取った。
「では、ロサ・キネンシス……失礼します」
 志摩子の言葉に祥子はハッと顔を上げた。目を見開いたかのような表情をしたが、それも一瞬のこと。美しく、時に冷たさを感じるほど整った顔をわずかに傾けた。
「ロサ・ギガンティアも気をつけてお帰りなさい」
「はい、ありがとうございます」
 交錯した視線が何か言いたげで。志摩子はコートを着込みながらその時を待ったが、祥子さまは何も言わなかった。全てボタンを留め終えて、カバンを片手に持ち、椅子をテーブルの下へ。会釈してビスケット扉に手をかけた。
「ねえ、志摩子」
「なんでしょうか?」
 半身だけ振り返ると、祥子さまは文庫にしおりを差し込んで本を閉じた。
「聖さまは、高等部を卒業されてから志摩子に会いに来たことがあって?」
「……どうでしょうか?」
 答えになっていないと思いつつも、志摩子の唇からは小さな笑いがこぼれた。
「祥子さまも、リリアン女子大ですものね」
「そうね」
 右手の下、しおりが飛び出した文庫を、祥子さまの繊細な指がリズムよく叩いている。ピアノを弾いているかのようだ。
「いっそ、他大学の方が良かったのかと、今更考えてしまうわ」
 どういう意味かと考える前に、祥子さまが言葉の意味を教えてくれる。
「高等部を挟んだ植え込みが……どういうわけか随分と高く感じられるのよ」

 ああ、そうか。祥子さまも、また一人になる。

 志摩子はもう一度、ビスケット扉に手をかけ、ゆっくりとそれを押した。数センチの隙間からあっという間に冷たい空気が忍び込んできた。
「祐巳さんと同じようになさればいいのでは?」
「祐巳と同じように?」
 出してはいけない名前だったかと志摩子は少々悔いたが、それでもそれが答えだと思った。
「私もそうしますから。祐巳さんのように」
 祥子さまはまだ首を傾げたままだった。
「会いたくなったら、会いに行きます。それだけです。きっとその時は、ツツジの植え込みも小さく感じられるのではありませんか?」
 黒く透き通った瞳が、真っ直ぐに志摩子を捉える。数秒後、その視線は手元に落ちて、再び文庫のページが開かれた。
「志摩子……いえ、ロサ・ギガンティアの言うとおりね」
 穏やかな笑みが祥子さまの口元に広がっていく。それに気づいて、志摩子はもう一度祥子に別れを告げた。
「ごきげんよう、ロサ・キネンシス」
「ごきげんよう」
 一人踏み出したそこは、とても寒々しい。だから、志摩子はすぐに扉を閉めた。サロンの空気が冷え込まないように。一人歩き出すその前に、少しでも暖まれるように。




  タイトル:「一人になる前に」
アップデート:2008.11.30


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